オスグット病について

オスグット病について

 

通称オスグッド病は,正式にはOsgood-Schlatter氏病(以下,OSD)といい,成長期におけるスポーツ障害の代表的な疾患として知られています。本疾患の好発競技は,サッカーやバスケットボール,バレーボール,陸上競技などが挙げられ,ある調査では,サッカーチームに所属した男子選手約285(平均13)を横断調査した結果,OSDは約8%を占めたという報告があり,中でもサッカーにおける発症頻度は他競技より高いと言われています。尚,OSDはゴールデンエイジ(9~12歳頃)と呼ばれる技術習得に最も適した時期に発症することが多く,選手としての育成上問題となる為,予防を図る重要性が高いスポーツ障害と考えられています。

OSDと発達過程

 

成長期における身体特性として,女子では11歳前後,男子では13歳前後に発育急進期があり,あるアンケートを実施した結果,成長期において短期間に著しい成長を示す選手ほど,OSDを発症する傾向を有しているという報告があります。この報告からもOSDと発育過程は非常に密接な関係があることがわかります。

 成長期における一般論として,骨の成長に対する筋の発育遅延が生じると考えられており,この時期は膝関節周囲筋,特に大腿四頭筋やハムストリングス,下腿三頭筋の伸張性低下及び筋の緊張増大を惹起し,膝関節へ大きなストレスを与える原因となります。一方で,脛骨粗面部(スネ)の成長軟骨は11歳頃から骨化核が出現し,徐々に発育して,最終的にはおおよそ18歳ごろに骨化が完了すると言われています。つまり,成長期は脛骨粗面部自体も力学的に未熟な時期であるにも関わらず,各種スポーツ動作(キック動作,ジャンプ着地時,急激なストップ動作など)において,大腿四頭筋には強力な収縮(1)が要求され,膝蓋腱付着部(脛骨粗面部)には過度な牽引ストレスが加わり,同部位における骨端軟骨の炎症あるいは微小な剥離骨折が起こります(2,3)。これが,OSDの発症過程であり,筋肉の硬さが増大すると共に骨に対する牽引ストレスも増大すると考えられます。

 

1 大腿四頭筋による脛骨粗面への牽引力

 

 

       図2 OSDの状態

 

 

      図3 OSDのレントゲン

 


OSDの発症要因

 

 OSDの代表的な要因に関しては,主に大腿四頭筋の柔軟性低下が挙げられ,この要因が各種競技におけるキック動作やジャンプ動作,急激なストップ動作など様々なスポーツ動作時に骨膜へ牽引ストレスを加えると考えられています。しかし,これは一要因に過ぎず,姿勢の問題やスキルの問題など,種々の要因が重なり発症するケースが大多数を占めると考えられます。

 

好発競技であるサッカーを例に挙げると,キック動作後の骨盤後傾とOSD発症に関連性があるとの報告やボールを蹴る時の軸足と重心位置との距離が長い程発症しやすいなどの報告があります。これらの報告から,前述したような姿勢の問題や身体動作に関するスキルの部分も大きく関連している可能性が考えられます。従って,OSDの予防には筋肉の柔軟性維持・改善を図る為のストレッチだけでなく,悪い姿勢の是正やスキルの確認及び指導なども重要であると考えられます。

OSDの症状

 

主な症状としては,脛骨粗面部(スネ)の圧痛や運動時痛,そして骨性隆起です。また,しゃがみ込み動作など深く膝を曲げる事で疼痛が出現する傾向が多く,膝の屈曲制限や筋力低下を伴う事も少なくありません。尚,骨の成熟と共に症状が消失する事が多い為,一般的には軽視されがちですが,遺恨変形が強い重症例では著しいスポーツパフォーマンスの低下だけに留まらず,日常生活までも支障を来たす場合や手術に至るケースもあります。

 初期症状としては運動後にのみ痛みが出現し,その後症状が悪化すると,プレー中にも痛みを生じ,重症化すると3~6カ月程練習できない場合もあります。尚,以下の症状の内,一つでも有している方は現時点でOSDを発症している可能性が高いと考えられます。また,一つも有さない場合は,以下のセルフチェックポイントにて自身の状態を把握し,発症予防を心がけましょう。

 

脛骨粗面部の圧痛,骨性隆起(4)

 

②運動中もしくは運動後の脛骨粗面部の痛み

 

③しゃがみ込み動作時の痛み

図4 OSDでみられる骨性隆起

セルフチェックポイント

セルフコンディショニング

発症後の対応について

 

症状については前項でも少し触れましたが,初期では,自発痛などの痛みの訴えは軽く,運動後の違和感や,軽度の熱感及び腫脹などが主に認められます。しかし,初期の時点より脛骨粗面部の圧痛は著明であることも少なくありません。そして進行期では,運動時及び後の強い痛みが認められ,終末期では脛骨粗面の腫脹や骨性隆起が著明となります。ある報告では,初期から進行期までにスポーツを休止させリハビリテーションを開始すると約90%が短期間でスポーツ復帰ができ,画像的にも骨片を形成せず骨性の修復が起きたと報告しています。つまり,OSDは早期発見,早期治療が原則である事がわかります。万一,疼痛が出現した場合は,まずアイシングやアイスマッサージなどの応急処置的なセルフケアを励行しましょう。そして,痛みの度合いにもよりますが,決して軽視する事なく早めに医療機関へ受診する事を推奨すると共にストレッチや姿勢及び動作改善などを中心としたリハビリテーションの試行を推奨します。